2009年03月01日

大山康晴[新装版]『勝負のこころ』PHP研究所 2009年

このところ、日本55選を受賞した、と報告をする日々が続いた。
返ってくる反応が人それぞれで、語弊があるかもしれないがおもしろい。

その中で、とある方から来たメールには、祝辞とともに
「今度将棋をしましょう。」と添えられていた。

とんでもない。
まだまだ人様と打てるレベルではない。
でも、いつか人様と打てるかも、と思った出来事をひとつ。

この間、関西将棋会館のエレベーターで
プロ棋士で「あろう」年配の方と一緒になった。

プロ棋士の顔を知らないがために大恥をかいた私は
以降、顔を覚えるよう努力している。
しかし「動く棋士」を見ているわけではないので
いざ目の前にすると、非常に困る。
どこかで見たことがある、ああでもわからない。

わからないけど、とにかくここはプロ棋士として
対応しよう、ととっさに思った。
(失礼きわまりない。)

対局室は5階だからとにかく5階を押しておこう。
(消極きわまりない。)
すると、にっこり笑って事務局のある3(階)を押された。

あせらなくてもいいのに、どうしよう、どうしよう、と
あせっていると、その方が話しかけてこられた。

「今日は、レディースセミナーですか。」
平静を装いながら答える。
「はい、そうです、でもなかなか上達しません。」

誰も私の状況など聞いていないが
緊張を打開したいがための防御反応が出た。

するとその方は、私が入門セミナーの生徒だと思われたらしく
「1手詰めが解けるようになると上達しますよ。」
とおっしゃった。

ここで、そうですねと返せばいいものを、
いま3手詰めです、と言えばいいものを、
「6枚落ちで勝てません。」
と答えてしまった。

答えた瞬間、会話が成立していないことに気付き
軽くブルーになっていると3階についた。
ああ、間抜けな生徒だと思われたかな、
これで他の女性の実力まで低いと思われたら嫌だな、
と思っていると、降り際に笑いながらこうおっしゃった。

「中盤ですね。」

え、と思った。
私、中盤なのか!?
これが生徒を続けさせる決め台詞なら私は見事にひっかかっている。
確実にその後テンションが上った。

しかし、だからといって、その後の6枚落ちに勝てるわけではない。
その日も突破できずに終わった。
でも中盤だと言われてから、ちょっと自分の中で
将棋への取り組み方が変わったのは確かである。

将棋を習い始めて最初に感じたことは
「将棋って、考え方が仕事と同じだ。」だった。
それが、しばらくすると
「将棋って、考え方が人生と一緒だ。」になった。

そんな頃、立ち寄った本屋でこの本を買った。
読み終えて思った。
「やっぱり!!」

電車の中で鉛筆を持ちながらこの本を読み
そうだよねえと一人で頷きながら線をひっぱっていると
「アンタ、何読んでんの?!」という視線が刺さる。
本の表紙をオジサンに「ガン見」されたことは一度ではない。

「オバサンのツラしたオッサン」と呼ばれているから
いまさら、誰に何を思われようが構いません。

持ち歩きに便利なサイズなので、カバンの中にぜひ。
1050円で人生学べると思います。

投稿者 Taniguchi : 18:40 | コメント (1)

2008年12月27日

初心者初級になる・その1

6月7月と入門教室に通い、8月からは自動的に初級クラスになった。
だから初級といえども一体自分が何級かなんてわからない。

で、そんなとき週間将棋新聞に週一回問題に答えて正解したら
集めたポイントで級をあげます、という記事を見つけた。

で、毎週送ってみた。ちなみに将棋新聞は最寄のKioskで購入している。
売店の女性に「あなたが読むの!?」と言われ
「そうです。」というと女性が買うのは私で2人め、とのこと。

もう一人はおいくつぐらいの方ですか?と聞いてみたら
「将棋新聞に載ったことがある、と言っていた高校生。」だそうだ。
おそるべし女子高生。

3ヶ月やってみたらポイントが貯まったので初級資格認定のカードを
送ってもらう。名刺より少し大きい紙のカードなれど、意外にうれしい。
で、調子にのって、先生に8枚落ち(先生に飛車・角・銀・桂・香がない)で
対局してもらったら、あっという間に負けた。
初心者に帰りたくなった。

よくよく考えてみれば、
新聞は1週間考慮時間があるが、対局は90分。
新聞は1手だけ考えればよいが、対局は勝負がつくまで考える。
新聞は相手が紙面だが、対局は相手が人間である。

それから2ヶ月。こてんぱんにやられながらも
ようやく6枚落ちに「格上げ」となった。
そんなときに見たのがこのDVD。
本編ではなく約30分間の特典映像「未放送スタジオトーク」を見たときに
「ああ、そう考えるのか!」と衝撃を受けた。

だからといって「6枚落ちをクリアできる」とは決していわないが
考え方の方向性が見えた気がするDVD。

もっと早く買えばよかった・・・


投稿者 Taniguchi : 18:23 | コメント (0)

2008年10月31日

初心者入門教室に通う・その2

将棋の駒の動かし方は「うろ覚え」程度である。
そんなレベルで本当にいいのか?
でも初心者って書いてあるからいいんだろうな、とかいろいろ思いながら
関西将棋会館にたどりつく。

会場に入ると、そこにはたくさんの女性たちがおられた。
なぜ、みなさん将棋を???
自分を差し置いてそんな疑問を抱く。
しかし、皆さんの雑談を聞いていてその理由がひとつ判明した。

孫だ。

孫と一緒に将棋を指したい。

なるほどなあ、と思った。
「おばあちゃん」という立場の方は、体力を使わずに
孫と一緒に遊ぶ手段が限られる。
一緒に運動するのはきついが、将棋なら体力を使わずに
かわいい孫と一緒に楽しめる。

ならば、この際
「お孫さんと楽しく将棋を指してみたいと思いませんか?」
という対象を絞ったキャッチコピーをつけたコースもつくったら
もっと流行るかも。

そんなことを考えていたら先生がこられた。
そして、本当に駒の動かし方から教えてくれた。
しかもやめずにがんばったら、途中で将棋の駒と盤シートをくれるという。
なんて太っ腹な将棋会館。

こりゃ自分でもがんばらねば、と思い将棋の本を探しにいく。
超初心者、とついていたことが決め手になり下記の本を購入する。
たしかに、まえがきの部分は他の詰め将棋よりも懇切丁寧だった。
詰め将棋というもの自体がわからない超初心者にもなんとなくわかる。

ただし個人的には、2つお願いがある。
ひとつは「超初心者」とタイトルにつけるからには、駒の動かし方も
載せておいてほしい。
私の友人は、習い始めてかなり時間が経ってからも
「金」と「銀」の動きがごっちゃになっていた。

もうひとつは「合い駒」の定義を、もっと詳しく書いて欲しい。
これは切なる願いである。
距離をあけて王手したとき、その二者間に駒を打たれたら詰められない、
という場合は正解ではない、ということを理解するのが
超初心者の私には後々までわかりづらかったので。

しかし、それをのぞけばこの本は非常にはまる。
電車内で読んでいて降車駅に気づかず乗り過ごし、
バスの中で読んでいて携帯をバスの中に忘れるくらいに。
(ちゃんと遺失物室に届いていて感動した。)

ということで、読むときはくれぐれもお気をつけて。


投稿者 Taniguchi : 18:27 | コメント (0)

2008年10月17日

初心者入門教室に通う・その1

将棋。
将棋に関することで、私の最も古い記憶は小学校の5、6年生頃までさかのぼる。
当時、担任の先生がクラスの男子生徒にこんな質問をされた。

「将棋と囲碁って、どっちがすごいの?」

その当時、将棋は漢字が書いてある、囲碁はオセロの親戚みたいなもの、
という程度の認識しかなかった私は、その質問に対して
特に興味を持って聞いていたわけではない。

なのにいまだにその質問を覚えているのは、
その質問に対して、即答すると思った先生が長考したからである。

「うーん・・・どっちがすごい・・・うーん・・・。」

質問をした男子生徒も、その長さにとまどい、クラスメイトも
それまでざわめいていたのに、先生があまりにも考えているので
静まりかえった。

ずいぶん、自問自答していた先生は、言葉を間違えないようしながら
(そんなふうに思えた)こう言った。

「どっちがすごいかはわからんけど、ご飯が食べられるのは囲碁の方。」

小学生ながらに「へえ~」と思った。
囲碁は食えて、将棋は食えないんだ。
なんとなく、意外な気がした。

先の質問をした男の子が、その答えを受けてさらに質問をした。

「だったら、囲碁を覚えた方が得なんや?」

「うーん、得かどうかは・・・。」

先生はまた考えていた。
20年以上前の記憶である。遠い遠い記憶である。

まさか自分がこの年で将棋を習いたいと思うとは。
そんなことを思いながら、ネットで初心者でいける将棋教室を探す。
すると、いきなりヒットした。

『レディース入門セミナー 入会金:無料 受講料:無料 定員:30名』
ありえない。どこだ?と思ったら大阪は関西将棋会館の主催だった。

決して近くないのに、不思議と悩まなかった。
見た瞬間、申し込みながら、友人を誘っている自分がいた。
誘った友人は、驚いた。

「将棋?!なんでまた?」

そりゃそうだ。
いきなり将棋の名人戦見てくると言い、帰ってきたら将棋を習うと言う。
なぜ習いたい?
自分でもわからない。
きっと将棋が私を呼んだんだ、と言ったら大笑いされた。

「将棋ねえ・・・あ、私、囲碁を習いたいと思ってた。囲碁にせえへん?」

いやいや。将棋、とにかく将棋、誰がなんと言おうが将棋。

これからは将棋の時代だから、無料だから、将棋会館だから、と
訳のわからない理由で友人を言いくるめ一緒に通うことになった。
言いくるめられてくれた友人の懐がたぶん深かった。
言い張った私はたぶん浅い。しかし今はあえて問題にしない。

そして、6月から2ヶ月間の入門コースに通うことになった。

つづく。

投稿者 Taniguchi : 20:46 | コメント (0)

2008年10月15日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その6

京都へ帰ってきてからも、落ち込みはしばらく続いた。
友人に慰めてもらおうと、将棋の話がわかりそうな友人に話した。

結果として、やめておけばよかった。

一人は、話し終えた後、パソコンでかちゃかちゃとなにやら調べ、
苦笑いしながら、私にこう言った。

「(シャッターを押してくれた方は)九段ですよ、九段。」

その後、いかに九段はすごいかというレクチャーをしてくれた。
へこみ二乗、である。

もう一人は、私にはっきりこう言った。

「(立会人にシャッターを押させた行為は)森内さんの気を乱したんじゃないですか?」

楽になりたいという甘い考えがコッパミジンに打ち砕かれただけでなく
傷に塩をてんこもりで擦りこまれた気分になった。

やはり、私は失礼なことをした。
これは、きちんとお詫びをせねばなるまい。詫び状を書かねばなるまい。

意を決して、東京は将棋会館に電話をした。

決したわりには「はい、将棋会館です。」との声に少しびびる。

-あのう、棋士の方にお手紙を差し上げたいのですが
  そちらにお送りすれば、お渡しいただけるのでしょうか?

「はい、お渡しできますが、どのようなお手紙で?」

-名人戦の前夜祭で立会人の方にシャッターを押させてしまったんです。

一瞬、沈黙が流れた。そして、押し殺した笑い声が聞こえた。
将棋会館の方は、かなり笑いをこらえていた、と思う。(たぶん)
意を決したわりには、さらにへこむ。

しかし、私のへこみが伝わったのか
将棋会館の方はあわてて私を慰めてくれた。

「いや~わからないですよね、棋士の顔なんて、ねえ~」

またへこむ。いやしかし、落ち込んでいる暇はない。

-そこでお詫びの手紙を書こうと思いまして。

「いや~それはまたご丁寧に~。」また笑われた。

こんな理由で手紙を送る人はやはり珍しいのかとまたへこむ。

-お渡しいただけますか?

「はい、将棋会館宛てで棋士のお名前を書いていただければ。」

-ではよろしくお願いします。

と電話を切った。

で、早速手紙を書き始めた。
やはり詫び状は毛筆が定番だろうと毛筆ペンで書き始めるが
久しぶりすぎてバランスがなかなか取れない。

なんとか書き終えて投函する。

そして思った。
これだけでは、きっとお詫びにならんよな。

そこで、決めた。

-将棋、やろう。

つづく。

投稿者 Taniguchi : 20:18 | コメント (0)

2008年09月04日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その5

恥をかきまくった翌日の名人戦初日は、祖母の母校を訪ねていたので
テレビで途中状況を見るだけだったが、翌日は生まれて初めて
「大盤説明会」なるものに出かけた。

対局が行われているホテルの中にある会場の1室で
それは行われていた。

初心者はどんなシステムかよくわからないのでとりあえず受付で聞くと
1日1,000円払えば、終日出入り自由とのこと。

会場内には2台のモニターが置かれ、対局盤面が終始映し出されていた。
また、決められた時間には、現在の対局状況をモニターとは別に
正面に置かれた盤面でプロ棋士の方たちが駒を動かして解説してくれる。

ちなみに、この会場にも入った瞬間たじろいだ。
当然といえば当然だが、圧倒的に年齢の高い男性が多かった。
というか、そういう方がほとんどだった。

時間もまだ早いし、夕方になればお勤め帰りの方もこられるのかも。
そんなことを考えながら、会場の両端に置かれたモニターを眺めていた。
しかし、会場の大きさに対して非常にモニターが小さい。

ホテルの設備の問題もあるから、これは仕方がないとして
ちょっといただけなかったのは解説に使う「大盤」が、
どうみても「中盤」だったことである。

正面の低い壇上におかれた「中盤」は、据え置かれた位置も低く
後ろからだと盤面の下が見えない。

プロ棋士が解説されている最中、盤面をもっと高い位置にしてくれという
要望が会場から出ていたが、結局最後までこのままだった。

「中盤」を支えている台に電話帳でもかましたらいいんじゃないかと
個人的に思っていたが、それを発言するほど初心者は強くない。


夕方になると会場には仕事帰りのサラリーマンや学生、
さらにカップルも登場しなんともいえない熱気があふれだした。
ちびっこたちもお父さんに連れられてきていた。

今回の名人戦は、羽生挑戦者が永世名人になれるかなれないか、
という戦いだった。
だから注目度もものすごく高かったということを、あとになって初心者は知る。

対局は、すこしずつ差がひらきはじめていた、らしい。(初心者には不明)
羽生挑戦者が優勢だった。

森内さんの形勢が悪いということが、周りの状況から初心者なりにわかると
前夜祭の件が、自分の頭の中でぐるぐる回りだす。

私は、大事な対局前に、ケチをつけたのではないか。

そんなことを思う方がおこがましいのかもしれないが
立ち位置と距離の取り方を間違えたという意識が重くのしかかる。
会場の興奮した雰囲気と反比例して、私のテンションはどんどん下がる。

そして、もうあと少しで森内さんが投了するかも、という盤面になったとき
(初心者にはわからないが雰囲気で理解した)
会場内のあちこちから声があがった。

「投了やっ!投了!!」

一瞬、ここは関西だったかと錯覚した。
競馬場で馬が最終コーナーを曲がってきた時の観客席、とは言わないが
かなりの投了コールが会場から聞こえたとき、本当に驚いた。
大盤説明会とは、こういうものなのか?

そして、ますますいたたまれなくなった。

「投了やっ!投了!!」

その声が

「おまえのせいやぞ、おまえのっ!」

と聞こえる。

前夜祭のことがなければ、投了コールに対して
「失礼なっ!やかましいわ、だまらんかい!!」
くらい舌を巻いて返せる根性は、持っていたと思う。

しかし、そんなことをいえる立場ではない。
この私が、言えるわけがない。


そして、森内さんが投了された。


続く。

投稿者 Taniguchi : 18:30 | コメント (0)

2008年08月19日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その4

ストレスは、選択肢を狭める。

とある方がおっしゃっていたことだが、けだし名言である。

舞い上がった初心者も、ストレスにさらされている。
舞い上がるということ自体、自分の対処能力を超えた状況にさらされている
状態であるから、いま私が置かれている状況は、私にとってストレスである。

シャッターを押してくれる人が、いない。

冷静であれば、くるっと見渡して給仕係のお姉さん以外に
他の給仕の方を見つけることができただろうし、
他にもいろいろと選択肢はあったのだろうと思う。

しかし、このストレス下では、視野も非常に狭くなっている。
目先しか見えていない。
最初に目があった方は、テレビ局のカメラマンだった。

右肩に大きな機材を抱えておられたお兄さんは
「ボクは無理です。」と目でうったえられていた。そりゃそうだ。

でも、カメラマン以外となると気軽に頼めそうな、お若い人が近くにいない。
森内さんと私の前には直径約1mの丸テーブル、その向こうには
リボンが一般参加者用ではない年配の男性が数人。

困ったなあ。
森内さんの左隣にいたカメラマンに目で断られてそのまま視線を
右の方に向けたとき、視線が通り過ぎた丸テーブルのむこうから
「私が押しましょう。」という神の声が聞こえた。

ひとりの60歳前後と思われる男性が、ニコニコと手を差し出されていた。
目上の方にシャッターをお願いするのはなあ、しかもリボンもすごいしなあ、
と思うが、どう考えても他に押していただけそうな方が見当たらない。

ここは、腹をくくってお願いしよう。
よろしいんですか、ではお願いいたします、ここを押すだけです、と
カメラを手渡した瞬間、私の左隣におられた森内さんが慌てられた。

「いや、それは・・・」

しまった。やってしまったか?
もしかして、シャッターをお願いするなんか
とんでもないハナシの方だったのか?

あわててリボンをもう一度みると、リボンが他の方よりひときわ大きいのに
初めて気づいた。
お名前も書いてあったが、初心者の私がわかるわけもない。

とにかく、これだけ森内さんが慌てられるのはただ事ではない。
ごめんなさい結構です、とカメラをいただこうとする私、
身を乗り出してカメラをもらおうとする森内さん、
でも、その男性はニコニコしながら手放さない、
状況をみて楽しそうに笑っておられる、その男性の両側の方たち。

丸テーブル周辺は軽く騒ぎになり、周囲の方たちも何事かとこちらをみる。
こんなはずじゃなかった。
初心者はこんなに目立つ予定ではなかった。

騒ぎになっているテーブルに気づき、先ほど私がお願いしていた
お姉さんが、カメラをもたれている男性の後ろから
右手に皿を抱えたまま、左手を延ばしてカメラをもらおうとする。

あの、給仕係の方にお願いしますから。
そう言った私に、男性は笑いながらカメラを構えておっしゃった。

「いやいや~、さあ、もっと寄って寄って。」

もう、ここは撮っていただこう。
どこのどなたか存じ上げないが(失礼千万)あとで、謝ろう。
そう思いながらカメラの方に顔を向けるが、笑えない。
この状況で笑えない。

たぶん、森内さんも同じだったのだろう。すると男性から注文が飛ぶ。

「もっと笑って~。もっと寄って~。」

ひきつる顔を無理やり笑顔にする。
すると、隣で森内さんがぽそっと一言つぶやかれた。

「立会人の先生に、撮っていただくの初めてです・・・。」

タチアイニン。
タチアイニンって、立会人?初心者にとっては初めて聞く単語。
立会人ということは、対局に立ち会うということか?
だとしたら、明日の対局に立ち会うであろう偉い人に
私はシャッターをお願いしたのか。

笑顔がくずれそうである。
シャッターが押され、ありがとうございましたと即座にカメラを
受け取ろうとしたら、撮った画像をみながらムッとされている。

私のカメラに何か問題が?!
もう撮れてなくてもいい、この状況から逃げたい、この場を立ち去りたい。

「邪魔がはいっちゃったよ~、もう一回。」

私の右隣にいた方の背中が画面に入ったのがお気に召さなかったらしい。
いやもう結構ですと言うが、またカメラを構えられた。

「はい、もう一度~はいもっと寄って~」

撮り終えると、この画像でよいかと私と森内さんに確認される。
ああ、なんていい方なんだろうとジーンとする。

お礼を言いながらカメラを受け取ると、森内さんと目があった。
お詫びとお礼をせねば。
思いながら、セリフが出てこない。脳は完全に思考停止状態である。
早く言わねば、と思った瞬間、口から想定外の言葉が出た。

週間将棋新聞読んでます!」

・・・
自分の言葉が耳から入った瞬間、めまいがした。
私は何をいうとんねん。
自分が大好きなプロ野球選手に会った時
「○○スポーツ新聞読んでます!」なんていうか?

森内さんは、一瞬止まられた。そりゃそうだ。
私ならこう返す。「はっ?」

しかし森内さんは、ご自分を落ち着かせるように一言おっしゃった。

「読んでるんですか。」

たぶん、これ以上の返しはない。
森内さん、さすがです。
ひろってくださってありがとう。

応援しています、という捨て台詞を残して
周囲の方々に頭を下げながら丸テーブルを去った。
立つ鳥、後を汚しまくりである。

ちなみに。

あとで判明した、シャッターを押してくださった男性のお名前。

名人戦第4局立会人桐山清澄九段

ああ。
無知は、最強。

投稿者 Taniguchi : 14:18 | コメント (0)

2008年08月07日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その3

前夜祭の開催時刻が近づくと、ポツポツと女性がお見えになった。
でも、私の想像していた人数(3割くらい)にはほど遠い。
しかも、お孫さんやお子さんとご一緒、という方々がほとんどで
OLのような方々は皆無である(見逃していたらごめんなさい)。

将棋界は、OLの方々には人気がないのか?
いや、人気があっても前夜祭には興味がないのか?
もしかして、オフィス街のホテルで前夜祭をしたらもっと違うのか?

初心者は、壁際でいろんなことを考える。

どうでもいい分析をしているとようやく会が始まり、
主役のお二人が入場された。

-うわ、ホンモノ。

影武者が出てくるわけでもないので当たり前だが
とかく初心者はささいなことで舞い上がる。
司会者が、前夜祭の諸注意みたいなことを話される。
きっと私みたいに舞い上がる初心者のためだろう、心して聞く。
握手とサインはダメだが、ご本人たちとの写真はご自由に、ということらしい。

写真、撮りたい。できれば一緒にお願いしたい。
しかし1人参加なので、写真のシャッターを誰かに押していただかないと
いけない。

グラスを持って、乾杯の音頭を聞きながら、誰にお願いすれば
適切かを考える。
とりあえず、しばらく動かないで考えよう、と乾杯後またしても
壁際に寄り、会場の皆さんの動きを眺める。

羽生挑戦者に群がる人、森内名人に群がる人、
おいしいそうな食事コーナーに群がる人、いきなり2杯目を注ぐ人、
お久しぶりと挨拶して回る人。

とりあえず、食事コーナーに向かうことに決め、列に並んでいると
給仕係の女性が、来賓者に配る食事を手に入れるべく
お皿を片手に3枚持って並ばれていた。

-そうだ、この方にシャッターをお願いしよう。

で、お願いしてみると、このお皿を届けた後で押してくださるとのこと。

-やった、これで安心して食べられる。

そう思って料理をもぐもぐ食べながら主役のお二人を眺めていたが
両名共に人気で(当たり前だ)人が途切れない。

-これ、もしかすると写真なんて無理かも。

いやいやいや、ここまできたらそれはない。
しかし初心者はタイミングがわからない。
時間とにらめっこしながら、料理をほおばりながら
ひたすらチャンスをうかがう。

そして。
ほんの一瞬、森内名人の前の列が途切れた。
といっても次に話そうとされている方が近づいているのも目に映った。

-申し訳ないけど、ここは初心者だから許してください。

近づこうとされている、どこのどなたかわからない方に
自己満足でしかない詫びを心の中で入れながら
小走りに森内名人に近づき、話しかけた。

「写真、一緒によろしいですか?」

完全に、舞い上がっていた。
舞い上がっている私の方をみて、森内名人は一瞬とまどわれた。
私が突進したせいなのか、このタイミングで入ってくるのと思われたのか
顔がこわばっていたのか、理由は定かではない。

でも、1拍おいて「いいですよ。」と森内名人はおっしゃった。

-やったあ、写真がとれる。

このときになってようやく思い出した、肝心なことに。

-お姉さん、どちらに?

急いで見渡したが、わからない。
あたりまえだ、動いてナンボの給仕係。
チャンスがいきなりやってきたから
お姉さんを確保しておく時間などなかった。

舞い上がった初心者、大ピンチ。

続く。

投稿者 Taniguchi : 19:41 | コメント (0)

2008年07月22日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その2

次の週、日本将棋連盟東海本部というところから、1枚のハガキがきた。

第66期名人戦7番勝負第4局前夜祭に来てもいいですよ、という
内容だった。
ドレスコードは書いてない。開催ホテルで会場を調べると、どうやら和室ではない。
そこまで把握したら、あとはもう行くだけである。

当日、あたふたと用事をすまし前夜祭に行こうと外へ出たら
土砂降りの雨。初心者は、こんなことですら弱気になる。

これは行くなってことなのか?
いやいや、ここまできたら行くだろうよ。

そんなどうでもいい自問自答をしながら、開催ホテルに入る。
案内係のお兄さんが、にこやかにいらっしゃいませと近づく。

-あの、○○という会場はどこでしょう?

ほんの一瞬、お兄さんが不思議そうな目で私を見た。
ありゃ、そこに行くような客には見えなかったのか?
やばい、私は場違いだったか?
さらに弱気は倍増する。
でもここまできたら行こうよ、ワタシ。

ようやく、会場の入り口にたどり着き受付をする。
リボンが入退場の際のチェック代わりになりますから
必ずつけてくださいといわれ、即座につける。
記念扇子もいただく。箱入りの記念扇子。
参加費に折込済とはいえ、うれしいなあと思いながら会場に入る。

-う、どうしよう。

これが正直なココロの第一声である。

見渡す限りオジサン、に見えたのである。

-うーん、将棋界って、女性ファンはいないのか?

初心者は、ファンの男女比率など知らない。
いや、そりゃあ確かに男性ファンが多いだろうとは思っていたが、
ここまで女性はいないものなのか?
前夜祭って、なんかこう、華やかな響きだから
女性ももっと当然のごとくおられるだろうという私の思い込みは
あっさりと覆された。

そーっと壁伝いに進み、おそるおそる上着を脱いでハンガーにかける。
その間も目だけはキョロキョロと女性の姿を探す。
スタッフの女性はおられたが、なかなかスタッフ以外の女性が見つからない。
どうしようと思ったところに、すっと立ち姿のきれいな女性の後姿が見えた。

-とりあえず、あの場所までいこう。

失礼極まりないが、勝手にその女性の位置を、私の
立ち位置のベンチマークと決め、すすすと女性の隣に歩み寄った。
会場を見渡しながら、やさしそうに微笑んでおられたので
きっと何度もこられているに違いない、と勝手に思い込み
おそるおそる話しかけた。

-あのー、私初めてきたのですが、いつもこんなに男性が多いのでしょうか?

その女性は、笑いながらおっしゃった。

「そうですねー。でも最近は小学生の女の子たちが、
 将棋を指すようになりましたから、もう少しすればこういうところに
 女性も増えると思いますが、そこが上ってくるまでは・・・」

そうですかー、と相槌を打ちながら、この方一般の方ではないなあと思い
リボンをみるとお名前が書いてあるのが一瞬見えた。
一般参加者のリボンには当然何も書かれていない。

名前を読もうと覗き込みかけたら、他の男性がその女性を連れていってしまった。
その後、前夜祭の最中に女性の名前が判明する。

千葉涼子女流三段

無知は、失礼極まりない。

続く。

投稿者 Taniguchi : 19:45 | コメント (0)

2008年07月11日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その1

私事であるが、先月から将棋会館で将棋を習っている。
もちろん、駒の進め方すらロクに知らないので
「初心者」コースで修行中である。

習おう!と思って行動まで起こしてしまったきっかけは
5月に名古屋で行われた名人戦第4局の前夜祭に行ったことだった。

以前から、「羽生善治」さんと「森内俊之」さんのお名前は知っていた。
とあるテレビ番組で、お二人の発言を聞いて
『将棋界にはすごい方たちがおられるんだなあ、一度お会いしてみたいなあ』
とぼんやり思っていた。

するとある日、このお二人が勝負をされるという記事が目に入った。
もしかするとお二人に会えるのではないか。

まだ前夜祭なるものがあるとも知らない時点で
直感的に思うのはかなり無謀思考である。
でも無謀思考もたまには当たるものである。

コツコツ調べていくと、どうやら名人戦という大会は
試合前日に一般人も参加できる『前夜祭』なるものがあるらしい。
そしてそれには、お二人が顔を出されるらしい。
これは行かずしてどーする。

しかし、初心者としては一体どうすればいいのかわからない。
そもそも、将棋の前夜祭って何?
その時点からすでにわからない。

将棋なだけに、正座で参加をしないといけないのか?
もしかしてドレスコードはあるのか?
女性は着物が基本なのか?
アタマの中がいろんな「?」で埋め尽くされる。

昔、書道を習っていた頃、正座が基本だったので
できないわけではないが、確実にあの頃より太っているので
シビレがきれるのは早いはず。
でも、お二人を見ることができるなら正座でも何でもいい。
着物以外でも許されるならドレスコードがあってもいい、なんとかする。

めげずに調べていくと、名人戦の試合は
プロ野球と同じように日本各地を渡り歩くらしいことがわかった。
当然前夜祭も各地開催。
東京・大阪・福岡・愛知etc。

たまたま、祖母のルーツを探るために愛知に行く予定があった私は
これもなにかの縁だろうと愛知の前夜祭に行くことに決めた。

しかし、ここからがまたわかりにくい。
「前夜祭を開催します、一般の方もどうぞ」」という記事はあるが
どこにどうやって申し込めばいいのか、という記事がどこにあるのか
非常にわかりにくいのである。
(私の探し方が下手くそという説もある)

これはもしかして、私に来るなってことなのか?

そんな猜疑心すらうまれそうである。
前夜祭が開催されるホテルに不審がられながらも問い合わせをしたりして
ようやく申し込み先が判明し、電話をする。

-あのー、前夜祭の参加申込をしたいのですが、期日が迫っているので
  FAXの方がよろしいでしょうか?

申し込みはFAXか郵送、そう書いてあったのだ。
先方の女性はおっしゃった。

「大丈夫ですから郵送でお願いします。」

-あのー、定員になったら締切と書いてあったのですが
  郵送して定員オーバーになることはありませんか?

初心者は臆病である。
締切まで1週間をきっていた。
自分が郵送している間に、定員オーバーになったら悲しい。

女性はお待ちくださいと言ってどなたかに確認をされた。
そしてこうおっしゃった。

「まだまだ大丈夫です。
 それに今日、お名前もお伺いしておきますから大丈夫ですよ。」

とても安心させてくれるお言葉をいただく。
うれしくてお礼を述べて電話を切る。

だけど。

前夜祭って、もしかすると人気がないの?

初心者の妄想は次回も続く。

投稿者 Taniguchi : 19:42 | コメント (0)