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2008年08月19日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その4

ストレスは、選択肢を狭める。

とある方がおっしゃっていたことだが、けだし名言である。

舞い上がった初心者も、ストレスにさらされている。
舞い上がるということ自体、自分の対処能力を超えた状況にさらされている
状態であるから、いま私が置かれている状況は、私にとってストレスである。

シャッターを押してくれる人が、いない。

冷静であれば、くるっと見渡して給仕係のお姉さん以外に
他の給仕の方を見つけることができただろうし、
他にもいろいろと選択肢はあったのだろうと思う。

しかし、このストレス下では、視野も非常に狭くなっている。
目先しか見えていない。
最初に目があった方は、テレビ局のカメラマンだった。

右肩に大きな機材を抱えておられたお兄さんは
「ボクは無理です。」と目でうったえられていた。そりゃそうだ。

でも、カメラマン以外となると気軽に頼めそうな、お若い人が近くにいない。
森内さんと私の前には直径約1mの丸テーブル、その向こうには
リボンが一般参加者用ではない年配の男性が数人。

困ったなあ。
森内さんの左隣にいたカメラマンに目で断られてそのまま視線を
右の方に向けたとき、視線が通り過ぎた丸テーブルのむこうから
「私が押しましょう。」という神の声が聞こえた。

ひとりの60歳前後と思われる男性が、ニコニコと手を差し出されていた。
目上の方にシャッターをお願いするのはなあ、しかもリボンもすごいしなあ、
と思うが、どう考えても他に押していただけそうな方が見当たらない。

ここは、腹をくくってお願いしよう。
よろしいんですか、ではお願いいたします、ここを押すだけです、と
カメラを手渡した瞬間、私の左隣におられた森内さんが慌てられた。

「いや、それは・・・」

しまった。やってしまったか?
もしかして、シャッターをお願いするなんか
とんでもないハナシの方だったのか?

あわててリボンをもう一度みると、リボンが他の方よりひときわ大きいのに
初めて気づいた。
お名前も書いてあったが、初心者の私がわかるわけもない。

とにかく、これだけ森内さんが慌てられるのはただ事ではない。
ごめんなさい結構です、とカメラをいただこうとする私、
身を乗り出してカメラをもらおうとする森内さん、
でも、その男性はニコニコしながら手放さない、
状況をみて楽しそうに笑っておられる、その男性の両側の方たち。

丸テーブル周辺は軽く騒ぎになり、周囲の方たちも何事かとこちらをみる。
こんなはずじゃなかった。
初心者はこんなに目立つ予定ではなかった。

騒ぎになっているテーブルに気づき、先ほど私がお願いしていた
お姉さんが、カメラをもたれている男性の後ろから
右手に皿を抱えたまま、左手を延ばしてカメラをもらおうとする。

あの、給仕係の方にお願いしますから。
そう言った私に、男性は笑いながらカメラを構えておっしゃった。

「いやいや~、さあ、もっと寄って寄って。」

もう、ここは撮っていただこう。
どこのどなたか存じ上げないが(失礼千万)あとで、謝ろう。
そう思いながらカメラの方に顔を向けるが、笑えない。
この状況で笑えない。

たぶん、森内さんも同じだったのだろう。すると男性から注文が飛ぶ。

「もっと笑って~。もっと寄って~。」

ひきつる顔を無理やり笑顔にする。
すると、隣で森内さんがぽそっと一言つぶやかれた。

「立会人の先生に、撮っていただくの初めてです・・・。」

タチアイニン。
タチアイニンって、立会人?初心者にとっては初めて聞く単語。
立会人ということは、対局に立ち会うということか?
だとしたら、明日の対局に立ち会うであろう偉い人に
私はシャッターをお願いしたのか。

笑顔がくずれそうである。
シャッターが押され、ありがとうございましたと即座にカメラを
受け取ろうとしたら、撮った画像をみながらムッとされている。

私のカメラに何か問題が?!
もう撮れてなくてもいい、この状況から逃げたい、この場を立ち去りたい。

「邪魔がはいっちゃったよ~、もう一回。」

私の右隣にいた方の背中が画面に入ったのがお気に召さなかったらしい。
いやもう結構ですと言うが、またカメラを構えられた。

「はい、もう一度~はいもっと寄って~」

撮り終えると、この画像でよいかと私と森内さんに確認される。
ああ、なんていい方なんだろうとジーンとする。

お礼を言いながらカメラを受け取ると、森内さんと目があった。
お詫びとお礼をせねば。
思いながら、セリフが出てこない。脳は完全に思考停止状態である。
早く言わねば、と思った瞬間、口から想定外の言葉が出た。

週間将棋新聞読んでます!」

・・・
自分の言葉が耳から入った瞬間、めまいがした。
私は何をいうとんねん。
自分が大好きなプロ野球選手に会った時
「○○スポーツ新聞読んでます!」なんていうか?

森内さんは、一瞬止まられた。そりゃそうだ。
私ならこう返す。「はっ?」

しかし森内さんは、ご自分を落ち着かせるように一言おっしゃった。

「読んでるんですか。」

たぶん、これ以上の返しはない。
森内さん、さすがです。
ひろってくださってありがとう。

応援しています、という捨て台詞を残して
周囲の方々に頭を下げながら丸テーブルを去った。
立つ鳥、後を汚しまくりである。

ちなみに。

あとで判明した、シャッターを押してくださった男性のお名前。

名人戦第4局立会人桐山清澄九段

ああ。
無知は、最強。

投稿者 Taniguchi : 14:18 | コメント (0)

2008年08月07日

将棋初心者、名人戦第4局に行く・その3

前夜祭の開催時刻が近づくと、ポツポツと女性がお見えになった。
でも、私の想像していた人数(3割くらい)にはほど遠い。
しかも、お孫さんやお子さんとご一緒、という方々がほとんどで
OLのような方々は皆無である(見逃していたらごめんなさい)。

将棋界は、OLの方々には人気がないのか?
いや、人気があっても前夜祭には興味がないのか?
もしかして、オフィス街のホテルで前夜祭をしたらもっと違うのか?

初心者は、壁際でいろんなことを考える。

どうでもいい分析をしているとようやく会が始まり、
主役のお二人が入場された。

-うわ、ホンモノ。

影武者が出てくるわけでもないので当たり前だが
とかく初心者はささいなことで舞い上がる。
司会者が、前夜祭の諸注意みたいなことを話される。
きっと私みたいに舞い上がる初心者のためだろう、心して聞く。
握手とサインはダメだが、ご本人たちとの写真はご自由に、ということらしい。

写真、撮りたい。できれば一緒にお願いしたい。
しかし1人参加なので、写真のシャッターを誰かに押していただかないと
いけない。

グラスを持って、乾杯の音頭を聞きながら、誰にお願いすれば
適切かを考える。
とりあえず、しばらく動かないで考えよう、と乾杯後またしても
壁際に寄り、会場の皆さんの動きを眺める。

羽生挑戦者に群がる人、森内名人に群がる人、
おいしいそうな食事コーナーに群がる人、いきなり2杯目を注ぐ人、
お久しぶりと挨拶して回る人。

とりあえず、食事コーナーに向かうことに決め、列に並んでいると
給仕係の女性が、来賓者に配る食事を手に入れるべく
お皿を片手に3枚持って並ばれていた。

-そうだ、この方にシャッターをお願いしよう。

で、お願いしてみると、このお皿を届けた後で押してくださるとのこと。

-やった、これで安心して食べられる。

そう思って料理をもぐもぐ食べながら主役のお二人を眺めていたが
両名共に人気で(当たり前だ)人が途切れない。

-これ、もしかすると写真なんて無理かも。

いやいやいや、ここまできたらそれはない。
しかし初心者はタイミングがわからない。
時間とにらめっこしながら、料理をほおばりながら
ひたすらチャンスをうかがう。

そして。
ほんの一瞬、森内名人の前の列が途切れた。
といっても次に話そうとされている方が近づいているのも目に映った。

-申し訳ないけど、ここは初心者だから許してください。

近づこうとされている、どこのどなたかわからない方に
自己満足でしかない詫びを心の中で入れながら
小走りに森内名人に近づき、話しかけた。

「写真、一緒によろしいですか?」

完全に、舞い上がっていた。
舞い上がっている私の方をみて、森内名人は一瞬とまどわれた。
私が突進したせいなのか、このタイミングで入ってくるのと思われたのか
顔がこわばっていたのか、理由は定かではない。

でも、1拍おいて「いいですよ。」と森内名人はおっしゃった。

-やったあ、写真がとれる。

このときになってようやく思い出した、肝心なことに。

-お姉さん、どちらに?

急いで見渡したが、わからない。
あたりまえだ、動いてナンボの給仕係。
チャンスがいきなりやってきたから
お姉さんを確保しておく時間などなかった。

舞い上がった初心者、大ピンチ。

続く。

投稿者 Taniguchi : 19:41 | コメント (0)